本当の萌えスロとは その6
祐子はスロウの一言に首を傾げた。
「祐子ちゃんも知ってるだろう? このブログの人気を」
「えっ!? ま、まぁ知らないことはないけど」
「なら話が早い。実はさ……」
そこで佐藤が困惑しながら口を挟む。
「あ、あの~、私の話は……」
「おっと、佐藤さんは席を外してくれ。もう萌えスロのことは分かったろ? 副部長の失言は謝るけど、世の中には色んな“萌え”があることを覚えておいてくれよ」
「わ、分かった。じゃあ私は社に戻るよ」
――秋葉原に残った3人は、駅前のコーヒーショップに入った。
「山岡、さっきの話は何だね?」
「……副部長、“究極のスロット”って何でしょうね」
「それを見つけるのがお前の仕事だろうが」
「オリ法でこの企画を始めたのが4年前。それなのに、まだ答えが見つからない。俺は疲れたよ」
「スロウ、何言ってるのよ! 本家なんて何十年も連載してるじゃないの!」
「祐子ちゃん、もう本家とか言うのはヤメてくれ。余計な問題は抱えたくない」
「まさか、もう辞めたいの?」
「……このブログ、ダントツの不人気なんだ」
「それは山岡のせいじゃない! 作者が悪いのだ! 更新をサボりまくり、しかも面白くないストーリーばかり書き連ねやがって! 訴えてやる!」
トミーは手元のカフェラテをこぼしながら憤慨している。
「副部長、やめてくれ。俺と作者の連帯責任さ」
「作者を代えてもらって、もう一度頑張れば良いじゃない!」
「それも一興だけど、もう本当に良いんだ。ちょっと休みたいし」
「だ、だけど……」
窓の外はアキバ系、仕事を終えたサラリーマン、OLなどでごった返し、秋葉原らしい喧噪に包まれている。3人は夕暮れに映えてきたネオン看板をぼんやり眺めながら、唯々沈黙していた。
数分後、意を決したようにスロウが口を開いた。
「副部長、祐子ちゃん、俺は旅に出るよ」
「えっ?」
「何だって? 会社はどうするんだ?」
「会社? んなこたぁどうーでもいい」
「良くないわよ! タモリ口調で言っても事の重大さは変わらないわよ!」
「ちょうど秋葉原だし、つくばエクスプレスでも乗ろうかな」
「山岡! 今からつくばに行っても何も面白くないぞ! せめて総武線か日比谷線にしろ!」
「副部長、そういう問題じゃないでしょ! スロウ、考え直して!」
「じゃあ一旦上野に出て、そこから北斗星で北海道に行こうかなぁ」
「んもう! 良い夢旅気分に浸ってないで、ちゃんと現実を見なさい! このバカ!」
祐子の右手がスロウの頬を直撃し、その音が店内に響き渡った。
「ッテテ……。祐子ちゃん、ごめんよ。でも、もう決まったことなんだ。引き留めてくれて本当にありがとうな」
「スロウ、本当に行っちゃうの?」
「ああ。会社にある私物は適当に処分してくれ。よろしくね」
「や、山岡……」
「副部長も元気で!
みんなも元気でね! また会える日まで!」
――そして、スロウは電気街口の雑踏に消えた。と同時に、この「すろしんぼ」もひっそりと幕を下ろす。
完
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